2010年7月30日

小学校の教室で

「不思議な光景だった」という文から始まる記事が、7月29日の全国紙の社会面に掲載されていた。

それは千葉県柏市の小学校の教室での風景である。6年生の英語の授業を担当しているのは、担任の日本人の先生とオーストラリア人講師の二人。だけど、二人は言葉を交わさない。お互いに話すことを禁止されているからだ。

記事によれば、外国人講師は業者を介して雇用されているために、担任の教師が直接何かを依頼することは禁じられているという。実際、4月に外国人講師にカードを黒板にはってもらった教諭が千葉労働局から是正の指導を受けたという。そうしたことを回避するために考案された苦肉の策が、教室で担任の教師と外国人講師が口をきかないという先の方策だったという。バカな話である。

小学校の教室と云うことで思い出した映画がある。チャン・イーモウが監督した「あの子を探して」という中国映画だ。中学校も出ていない13歳の少女が、一ヵ月だけの代理教員として貧しい片田舎の小学校に就く。本人が望んだことではない。彼女の家も恐ろしく貧しいのだろう。一ヵ月の代理教員として50元もらえるという村長の話が動機だった。相手が小学生とはいえ、13歳の少女が教壇に立ってもまともに授業ができる訳がない。本人も決してそれを求めたわけではない。毎日、黒板一面に教科書の一課を書いてはそれを子供たちに書き写させるだけの授業をしていた。子供たちは当然、そんな授業を楽しいと思うわけもなく、彼女の授業に馴染めない。

ある日、その中の一人の男の子が学校に来なくなった。彼の父親はすでになく、そして母親は病気で伏している。一家は借金を抱え、彼が街に働き手として送られたのである。その彼を村へ戻すために、13歳の先生が一人で彼を捜しに出かけるという話である。しかし、街までのバス代も持っていない。彼女の往復のバス代と彼の村までのバス代を稼ぐために、クラスの全員の子供たちが知恵を出し合って方策を練るシーンがいい。

結局、街までのバス代の工面ができず無賃乗車を決め込んでバスに潜り込むのだが、そのバスからも放り出され、遠路歩いて街までたどり着く。そこからの行動力がすごい。金がなくて3日間ほとんど何も口にしないまま、できる限りのアイデアと行動力をもとに最後はテレビ局のカメラの前で彼に呼びかけるチャンスを得る。それがきっかけでその生徒と巡り会うことができ、一緒に村に戻ってくる。

50元のお金を目当てに小学校の代用教員を引き受けざるをなかった少女が、一ヵ月という短い時間のなかで驚くほど成長し、子供たち(彼女もまだ子供だけど)と本当の気持ちのつながりを得る過程が魅力的に描かれていた。

2010年7月25日

フィンランドの森

那須にフィンランドの森という場所がある。そこにはレストランやパン屋、チーズ屋、腸詰め屋、それに薪ストーブの実演販売をしている店などがある。

写真はそこのレストランで出てきたカプチーノ。使っているillyのコーヒーも美味しいけど、こうしたちょっとした工夫がもっと美味しい。

2010年7月16日

MANGA

ストックマンという名の百貨店の一部にAkateeminen Kirjakauppa(アカデミア書店)という大型の書店が入っている。ゆったりとした雰囲気のいい本屋である。2階には、フィンランドが誇るデザイナーであるアアルトの名をつけたCafe Aaltoがある。

その一部にMANGAとコーナー表示された棚があり、ドラゴンボールやNANAがずらりと揃えられていた。吹き出しは英語の表記に直されている。MANGAの棚の隣にはCOMICSがある。日本の漫画以外のマンガである。

MANGAとCOMICSは何が違うか。マンガは日本製コミックの別称なのだろうが、造本も違うのに気がついた。MANGAは日本式に右綴じで、COMICSは洋書がそうであるように左綴じである。

 
この本屋もそうだけど、犬を連れて買い物をしている人が多い。カフェのなかにも犬連れの客がいる。どの犬もおとなしい。柴犬を連れた客に出会った際、思わず「おっ、シバ」と呟いたら、分かったのか、嬉しそうに「Yes!」と返ってきた。
 

2010年7月15日

Into the woods

森と湖の国と形容されるフィンランドの一端を見たくて、ヘルシンキから鉄道とバスを乗り継いでNuuksio National Parkへ行ってみた。

森を3時間ほど散策する。印象は、一言で言うと八ヶ岳みたいだった。ただ、日本の山と違うのは、鳥がいない。ほんの一部で鳥の鳴き声を聞きながら歩いただけだ。妙に静かだ。鳥のさえずりを聞きながら歩く日本の山の方が僕は好きだ。

フィンランドの気温は20〜25度と聞いていたが、今回の滞在中ずっと30度近くの暑さに悩まされた。結構湿度も高い。例年以上に熱波が影響しているらしい。それも来週早々から収まり、最高気温25度程度になるらしいが、その頃には帰国しているのが残念。

2010年7月14日

ヘルシンキのかもめ食堂

少し早い夕食を取るため、Kahvila Suomiという名のレストランを訪ねた。小林聡美らが出演した映画「かもめ食堂」の舞台になった場所だ。

街の中心部から少し離れた静かな地域にある。店の表にはいまも映画で使った「かもめ食堂」の文字が残されている。

ガイドブックにもこの食堂のことは載っていて、日本人観光客がよく訪ねてくるらしい。僕が行ったときも、他に観光客らしい日本人の若いカップルがひと組、ビールを飲んでいた。

その店では星君という25歳の大阪出身の若者が働いていた。もともと日本で日本料理の調理人をしていたが、日本以外から日本食を考えてみたいと思いたち、その彼の心の糸に引っかかったのがフィンランドだったらしい。

ヘルシンキの学校でフィンランド語を集中コースで勉強、その後市内の高級ホテルで日本食担当の調理人を務めた後、何もツテがないままカモメ食堂を直接たずねて働かせてくれるように頼んだらしい。映画を観て訪ねてくる日本人客が多かったオーナー夫婦にとっても願ってもないことだったらしく、めでたく採用。厨房だけでなく、レジやフロアなどの仕事もしている。

飛び込みで仕事を求めるのが、どこでも彼らのやり方だと聞かされた。料理人としての腕前だけで勝負できる世界だからだろう。「包丁一本さらしに巻いて」の世界が、まさに世界を舞台にあることを知った。

外国で彼のような日本人に出会うと嬉しい。フィンランド人と日本人はその性格や労働感が似ているところが多いと感じたけど、それでも言葉はもちろんのこと、多くの面で違いがあることは間違いない。

だから、日々、苦労は多いはずだ。その中で、そうした両国の違いを感じつつ、それらをある面で楽しみながら、その先の自分の夢を目指して頑張っている。飲食店の営業に関する規制が最近強まって、クリアしなくちゃならない問題が増えたと嘆いていたけど、彼が早く自分の店を持てることを祈っている。

監獄ホテル

今、ヘルシンキのカタヤノッカという地域に泊まっている。宿泊先は、かつて監獄だった建物を使ったホテル。だから壁が通常の建物に比べて圧倒的に厚く、隣の部屋や外の音が一切入ってこない。プライバシーの保護は抜群。だけど、そのために客室内では無線LANを使うことができないのだ。ハハハ。

ホテルで働くスタッフのユニフォームも囚人服風なのが楽しい。胸には囚人番号を模してホテルの電話番号がプリントされている。この囚人服風のシャツだけでなく、手錠、足かせと鉄玉、囚人帽などがホテルグッズとして売られていた。

2010年7月13日

白夜

基調講演を頼まれ、その国際学会のためにフィンランド北部の街、オウル市に滞在している。ここは緯度65度より少し北に位置する街で、ほぼ北極圏に近い。落ち着いた、とても清潔な街だ。

写真は滞在しているホテルの部屋から外を撮ったもの。真夜中の1時過ぎだというのに外はこんなに明るい。

2010年7月11日

ラジカセが吠えてた頃

ヘルシンキの現代美術館に展示してある一作品。昔使ってたラジカセとそっくりだったので、思わず目を奪われた。で、よく見ると、スピーカーのところから音が刺さるように突き出ている。僕がラジカセで音楽を聴いてたのは中学時代のことだからもう40年も昔のこと。その頃のラジカセの音は、確かにこんな感じだった。

I stole this from ......

ヘルシンキにあるキアズマ(KIASMA)現代美術館を訪ねた。ここには、ヘルシンキ・ナショナル・ギャラリーの中の現代美術作品が展示されている。美術館は小振りだが、展示の仕方にフィンランドの現代美術作家に向けた暖かいまなざしを感じる。

写真は、そこのミュージアム・カフェのテラスで飲んだコーヒーのマグ。洒落が効いてておもしろいなあと思ったが、その後に覗いたミュージアム・ショップでは同じマグが6ユーロで売られていた。お土産にひとつ購入。自宅で、I STOLE THIS FROM KIASMAの文句を目にしながらコーヒーを飲むのも悪くないかなと。

2010年7月10日

インクは匂うか

昨日のNHKの9時のニュースの中で、電子ブックが取り上げられていた。ちょうど有明の東京ビッグサイトで「東京国際ブックフェア」が開催されているのに合わせての特集だった。

電子ブックを発売をしているメーカーや出版関係者のインタビュー等がそこでは紹介されていた。その特集の終わりに男性のキャスターが、電子ブックもいいけど、自分はインクの臭いのする新刊書やかび臭い古本も味わいがあって好きだとコメントしていた。

言いたいことはよく分かる。しかし、その表現はあまりに紋切り型。新刊の本って、本当にインクの匂いがするのかな 。実際に何冊か試してみたが特に匂いなど僕は感じないし、新刊本は日常的に手にするが、これまでインクの匂いを感じたことはない。

確かに昔はそうだったような気もする。でも何十年も前のことだ。インクもその頃からすると、ずいぶん技術改良されたのに違いない。改良されてないのは、人の頭の方なんだろう。